君の膵臓をたべたい 住野よる
読み終わって、心の中に虚しさが広がる本が最近は増えてきているけれど、これは違って、心地よい青春の風が吹き抜けていくような読後感でした。
今回実写映画化されるということですが、アニメ映画化するのも向いているように思います。
映画化するからと内容を変えなくても、小説の世界を忠実に再現できれば、心にじーんと響くとても良い作品になるのではないでしょうか。
アニメ映画化されたら、見たいな。
帯に予想外の展開というようなことが書いてあって、読み進めていくうちに、どこでそんな方向に話が進んでいくのかと、今か今かと待ち望んでいた部分がありましたが、この話の場合は、予想外なことが起こるなんてことは知らずに、ただただ読み進めて、突然事実を突きつけられる方が読んでいて面白いのではないかと思います。
あまり事前情報を仕入れてしまうと、純粋な衝撃を得ることが出来ない。
むしろ、そろそろ事が起こるはずだからとおおよそのストーリー展開を読みやすくなってしまって勿体無いような気がします。
書店で初めてこの作品を見かけたとき
『君の膵臓をたべたい』
なんてカニバリズムなタイトルを良く付けたな、と思ったのを覚えています。
書店さんが盛り上げていて買いやすい雰囲気があったから良いけれど、そうでなかったら、なかなか手をつけにくいこのタイトル。
レジに持って行くのも勇気がいります。
最初はタイトルから邪推して、気持ちの悪い歪んだ愛情みたいなものが書かれているのかと思っていました。
しかし、実際はそんなことはなく、もっと爽やかな青春のやり取りや、そこから一人の男の子が成長していく様が描かれていました。
病気で余命わずかのヒロインも明るく前向きで、読んでいて自分も万が一のときにはそうありたいと思わせてくれる強さがありました。
後半は一気に急展開を迎えますが、ありきたりな流れでしんみり終わって行くよりも、もっと現実的で日常って本当はそういうものだよなと思わせてくれるものでした。
小説みたいに論理的に秩序正しく展開する日常なんて本当はなくて、常に何人もの人の選択が偶然のように積み重なって出来上がっていくものですもんね。
そして、突然ある種の暴力によって分断されたりもする。
日常はそういう不確かなものの上に成り立っている。そんなことを考えさせてくれる作品でした。
これから読む人にはぜひ、タイトルも帯のコメントも全て忘れて、ただひたすらに作品の中の世界を堪能してほしいなと思います。
そして、ありきたりな内容かなと読むのを躊躇っている人のためにも、ぜひアニメ映画化して欲しいです。